2026年1月23日(金)に、チェリストのマルク・ドロビンスキーとピアニストのシモン・アダレイスによるリサイタルが東京で開催されます。
マルタ・アルゲリッチプロジェクトの招聘アーティストで御歳85歳、 ロシアの魂を持つチェロの巨匠と、ラヴェル、フランク直系の弟子であり、フランス音楽の真髄を受け継ぐピアニストのお二人に、音楽に対する考え方や、今回の日本公演に向けた思いについてお話を伺いました。
音楽とは、心に触れる言葉

今回のコンサートのチラシを拝見したとき、私が真っ先に気になったことが「ロシアの魂を持つチェロの巨匠」と「ラヴェル、フランク直系の弟子」という、お二人の肩書についてでした。
ドロビンスキー氏は、巨匠・ロストロポーヴィチの下で多くのことを学んでこられましたが、彼から学んだことについて語ってくれました。
ドロビンスキー「彼から学んだことは、テクニックが完璧なのはもちろんだが、それだけでなく《音楽を使って演奏者は何かを言う》ということでした。
その音楽のバイブレーションと音との関係を使って、聴いてくれる人と対話をするのです。
また、ロストロポーヴィチは、毎回コンサートをするときに、『これが人生で最後のコンサートだと思って弾きなさい』とよく言っていました。
大事なのは、嘘をつかないことです。演奏者の個人的な気持ちのコンディションは関係なく、聴いてくれる人との対話をし、生きた演奏をするのです。」
その上で、「音楽とは、心に触れる言葉」と考えているドロビンスキー氏は、ロシアで演奏活動をすることが好きだとも言います。
ドロビンスキー「若い人たちが社会的な目を意識するのではなく、純粋に音楽が好きで聴きに来てくれます。
音の喜びを求めて、弾かれる作品の美を求めて聴きに来てくれます。
それは非常に私には嬉しいことで、どの田舎の村でもいいから弾きに行きたいです。たとえ音響やピアノが悪くても―。
私はいつもその時満足します。それは、自分がしたことが無駄にはならないからです。」
一方のアダレイス氏には、フランクやラヴェルの直系の弟子として、継承している音楽観や美学について伺いました。
アダレイス「フランクの和音の装飾音が大事で、例えば3度の使い方が独特であるなど、それらの表現が身についていると言えるかもしれません。
ラヴェルは、日本庭園のように限られた世界の中で、細やかに隅々まで考えられている音楽です。
それらが、自身の音楽的個性の大きな部分になっていると言えるかもしれません。」
その上で、チェロとのデュオにおいて、ピアノとして心がけていることは《バランス》だと語ります。
アダレイス「デュオにおいて、ピアノの役割は平等ではありません。
チェロは主にソロの旋律を担うのに対し、ピアノはソロの旋律もあり、対話の役割もあり、そしてオケ的な支え、すべてを担います。だから面白いのですが。
ピアノは伴奏の部分もあり、楽曲の中でチェロの音の薄い部分があるとき、ピアノがそれを支えて、常にバランスを良くする必要があり、ピアノの責任は大きいと考えています。
もちろん、これはチェロとのアンサンブルに限ったことではありません。
チェロとのアンサンブルで注意すべき点は、音域です。バス・テノールの音域は、すぐ音をピアノの音でつぶしてしまいかねないからです。」
ドロビンスキー「ピアニストとは、一緒に息ができず、同じ波に乗れないと難しいです。
時々、ピアニストが『ここはどうしますか?』と聞いてきますが、それはどうでもよく『一緒に波に乗りましょう』と思っています。
マルタ(・アルゲリッチ)と弾くとき、自分の個性も話しますが、彼女はとても個性を持っているので、自分を消して融合することが時に必要な時もあります。
彼女の作る波が自分と違っていても、面白かったらその波に乗ることもあります。
大事なのはお互いが仲が良く、一緒に奏でたときの音楽が好きである、ということです。」
二人の出会いとこれから
そんなお二人ですが、面白い偶然の重なった出会いから、初めて共演したコンサートが上手くいき、お互いがコンサートを企画し合ったといいます。
アダレイス氏は、ドロビンスキー氏の誇示しない演奏が好きだと言います。
アダレイス「彼は長い音楽人生を歩んできて、名声を得てきていますが、おごり高ぶることはなく、どんな場所でも、どのような方が聴いていようとも、常に同じように弾きます。
85歳になっても、音楽に対する喜びだけを持って弾いている素晴らしい方です。」
ドロビンスキー「リサイタルにおいて、何か新しいものを受け入れていくお客さんの前で弾くのが好きですが、シモンと弾くときはそれができます。
彼と弾くと、私たちの音の会話にお客さんが耳を傾けてくれるのです。
また、日本を訪れるのは今回が20年ぶりになります。当時は5箇所でコンサートしましたが、共演者、楽器、音響、主催者の方々、お客さんもとても良く、今でもいい思い出になっています。」
最後に、今後お二人で挑戦してみたいレパートリーやプロジェクトについて伺いました。
ドロビンスキー「2026年はショスタコーヴィチ生誕120周年なので、できるだけショスタコーヴィチを弾きたいです。
ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番をオーケストラではなく、「室内楽とピアノ版」で共演したことが何度かありますが、毎回夢のようでした。その編成とも再び共演したいです。
60年前、ロシアの田舎町のコンサートマスターに、こんなどうしようもないコンチェルトをよく覚えようと思いましたね、と言われたことがあります。パリでもショスタコーヴィチは人気ではありませんでした。
しかし今ではそんな言葉を言う人もいませんし、パリでは全曲弾かれます。
2026年はショスタコーヴィチのすべてを弾きたいと思っています。」
公演情報
※本公演は終了しました。
ショスタコーヴィチ生誕120年記念
マルク・ドロビンスキー&シモン・アダレイス
チェロ&ピアノデュオコンサート


◆日時:2026年1月23日(金) 19:00開演
◆会場:文京シビックホール 小ホール
◆プログラム:
- ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番(チェロとピアノ版)
- J.S.バッハ:チェロソナタ 第2番 BWV1028
- フレスコバルディ:トッカータ
- ブルッフ:コルニドライ
- ハイドン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉
