韓国国内で最難関と言われる中央音楽コンクールで、当時歴代最年少で第1位を獲得してその才能を示す一方、韓国芸術総合学校卒業と同時に講師に就任するなど、演奏家としても指導者としても活躍する、韓国のヴァイオリニスト、キム・ハヨンさん。
そんな彼女が、2025年5月に東京で来日リサイタルを開催します。
今回は、そんなキム・ハヨンさんに、演奏家・指導者として意識していることや、日本で開催するリサイタルへの思いなどについてお話を伺いました。
演奏家として、指導者として
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演奏家としては、韓国国内の主要コンクールを次々と制してその実力を示す一方、韓国芸術総合学校を優秀な成績で卒業すると同時に講師に就任するなど、若くして指導者としての道も歩み進めているキム・ハヨンさん。
演奏家活動と指導者活動を両立するにあたっては、「自分自身が生徒たちの一番の見本となれること」を意識し、日々努力していると言います。
「音楽家にとって『演奏』と『指導』は、分けることができないくらい、お互い緊密につながっていると思います。
私の演奏を通して生徒たちが学ぶこともできますし、生徒たちを音楽的に説得するためには、私自身もある程度の演奏力を備えていないといけないからです。日常生活までも、生徒たちのお手本になれるように努力しています。
こうした心構えが、私の演奏にもそのまま反映され、もっと良い演奏ができるようになると考えています。」
また、指導者として、若手演奏家たちの才能を伸ばす上では「本人の努力」「周囲の環境」が特に重要だと言います。
「『本人の努力』については、練習にそそぐ時間や毎日続ける誠実さ、辛くて挫折しそうになっても我慢して耐える忍耐力などが挙げられます。
また、私の経験上、いくら才能があったとしても、適切な芸術的刺激や周囲の環境からのサポートがない場合は、その才能を咲かせるには限界があると思っており、この2点が重要だと考えています。」
ちなみに、日本と同じく韓国の教育環境も、昔より今のほうが自由な雰囲気であるようです。
キム・ハヨンさんが学生時代に師事したキム・ナムユン氏のクラスは、特に統制・厳格さのある環境であり、それが当たり前だと思っていた彼女にとって、今の時代の指導方針には少し慎重になる面もあると言います。
「今の若い世代は、私が学んでいた当時より、はるかに自由な雰囲気です。そのため、私も生徒たちを指導するとき、私の言葉や行動で不必要に生徒たちを傷つけないよう、意識する面もあります。
それでも、音楽にとって厳格でなければならない時は、私もキム・ナムユン先生のように厳しく指導する時もあります。私が高度な技術や強い精神力を得ることができたのは、キム・ナムユン先生の下で学べていたからですので、時には厳しくあることも必要だと思っています。」
夢だった、日本でのリサイタル開催
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そんなキム・ハヨンさんが、2025年5月に東京でリサイタルを開催します。
「幸せなことに、私はこれまで韓国で様々な音楽活動を行ってきました。その中で、自分自身にとって新しい挑戦をしたい、同じ場所にとどまることなくもっと成長したいと強く感じるようになりました。
幼い頃、日本で演奏する機会に恵まれ、その後は常に日本の音楽界に関心がありました。
『いつか日本でリサイタルをしてみたい』という思いをいつも持っていたので、今回の演奏場所を東京に決めました。」
これまでも日本を訪れたことがある彼女にとって、日本のクラシック音楽ファンの前で演奏することはとても楽しみなようです。
「日本のクラシックファンの皆様は、クラシック音楽に対して造詣が深く、心から音楽を楽しむ方が多いと思っています。
日本と韓国はこんなにも近い国ですが、観客の雰囲気が全く違うことが私はいつも不思議です。
韓国ではクラシック公演でも、まるでポップスター公演のように賑やかな雰囲気ですが、日本ではそれと比べてとても落ち着いています。
しかし、雰囲気や表現が異なるだけで、演奏者に対する愛情はみんな同じだと感じます。
日本の方々に、私の音楽に対する真心が上手く伝わり、演奏後に少しでも感動の心を抱いていただける時間になることを楽しみにしています。」
今回のリサイタルは、パガニーニの甘美な『カンタービレ』や、ミルシテインによる超絶技巧曲『パガニニアーナ』、そしてフバイがビゼー『カルメン』をもとに編み上げた華麗なファンタジーなど、聴きごたえ抜群で、挑戦的なプログラムが魅力的です。
「一番心がけて準備している点は『最もヴァイオリンらしい音』『ヴァイオリンだけが出せる美しい音とは何か』を追求するところです。
それに対する悩みが、私の挑戦といえるかもしれません。
『パガニニアーナ』と『カルメン・ファンタジー』は、私が普段最も楽しんで演奏するスタイルの曲なので、観客の皆様もその曲の楽しさを一緒に感じていただければ嬉しいです。
また、私は日頃から演奏者とは、楽譜のない観客にその楽譜を鮮やかに伝える役割があると思っています。
各レパートリーについて、表現する考えや感情を歪みなく一緒に感じて、言葉で説明しなくても一体の感動を感じるコンサートになることを願っています。」
最後に、これからの活動に向けた意気込みを伺いました。
「今回のリサイタルをはじめ、日本で私の演奏を再びお見せする機会ができるよう、今後とも努力していきます。
また、日本の演奏者の方々と一緒に音楽会を開く計画もありますが、私のこのような活動が力となって、今後両国の素晴らしい演奏者の方々と一緒に、観客の皆様にまた会えるようになることを願っています。」