昨年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールを優勝したアリスト・シャムが、日本での初リサイタルを迎える。
来日自体は何度もしているが、世界でも特に温かい日本の聴衆に自分の音楽を届けられることを楽しみにしていると言う。
プログラムの意図から音楽と学びの関連性、そして音楽が持つ可能性についてお話を伺った。
日本での楽しみ:人々から文化まで


―今回が日本での初めてのリサイタルとなりますが、来日にあたってどのようなお気持ちや期待をお持ちですか。
シャム「クラシック音楽を心から愛する日本の皆様に、自分の音楽と芸術をお届けできることをとても楽しみにしています。
皆様から多くの温かいメッセージをいただく中で、日本の聴衆は世界でも特に温かく、音楽への理解が深いと感じています。」
―リサイタル以外に日本で楽しみにしていることはありますか。
シャム 日本を訪れること自体が大好きなので、また多くの親切な人々に出会えることを楽しみにしています。また、日本の短編小説をいくつか手に入れたいと思っています。翻訳ではありますが、村上春樹、安部公房、川上未映子などの作品を楽しんできました。そして、食事や温泉も楽しみです。
ブラームスの音楽が持つ壮大な世界
―バッハ、ラヴェル、ブラームスの作品がプログラムに並んでいますが、この組み合わせにはどのような芸術的意図やインスピレーションがあるのでしょうか。
シャム「私は、宇宙のリズムから生まれる音楽、つまり私たちの世界やその先にあるエネルギーや力を反映する音楽を愛しています。
バッハ、ラヴェル、ブラームスはいずれもそのような意識を持ち、人間の感覚を高める音楽を書いた作曲家です。同時に、この3人はそれぞれ全く異なる視点を持っているため、その多様なレンズを通して互いに補完し合う豊かな世界観を楽しむことができます。」
―今回のツアーではブラームスが中心的な位置を占めていますが、彼の音楽のどのような点に最も共鳴されますか。
シャム「ブラームスは私の最も好きな作曲家です。なぜなら、私が音楽に求める要素を最も体現しているからです。」
―音楽に求める要素、とは?
シャム 人生を超越するほど豊かな感情と表現の世界、そして卓越した作曲技法と構造の完璧な融合です。彼は初期作品の段階からすでに、世界の本質や宇宙的なスケールの哲学的思考を深く理解しており、それが彼の音楽を世界中の人々の心に響かせています。
―ピアノ・ソナタ第1番は大胆で若々しい作品ですが、どのような点が「ブラームスらしさ」を感じさせますか。
シャム「このソナタは彼の作品1番でありながら、すでに彼の音楽的個性の芽が力強く、瑞々しく表れています。
世界の哲学的・感情的な深みを表現したいという強い意志が根底にあり、同時に若者が抱く野心や希望、夢、そして不安といったものも探求されています。
また、ブラームスの純粋で飾らない天才性が表れた非常に野心的な作品でもあります。
作曲当時の楽器の限界を押し広げるような書法も見られ、4楽章を通して壮大なスケールを持つ、いわば『ピアノのための交響曲』です(特に第1楽章の複雑な展開部は印象的です)。」
全ての学びは、音楽に通ずる
―音楽以外にも幅広い学問を学ばれてきましたが、それらは演奏や解釈に影響を与えていますか。
シャム「私は、人が経験し学んだすべてのことが、最終的には創造に影響を与えると信じています。
そのため、教育や日常生活の中で、できる限り多くの分野について学び、自分の音楽に多様な視点と豊かなアイデアを取り入れたいと考えています。」
―専攻は経済学とのことですが、音楽に通ずる点はありますか。
シャム「どちらも明確な構造や体系が必要でありながら、最終的な解釈は自由で非常に人間的なものであるという点です。
そして真の自由を得るためには、その基盤となる構造を深く理解することが不可欠です。」
音楽の無限の可能性


―世界各地で演奏される中で、ピアニストとして最も大切にしていることは何ですか。
シャム「もちろん、音楽を分かち合うこと―それは私たちにとって特別なものですし、世界中の聴衆と出会えることも大きな喜びです。
私の音楽を通して、日常では得られないような特別な体験を届けられたらと思っています。
そして何より重要で充実感をもたらしてくれるのは、音楽そのものです。
ひとつひとつの音、和声、音程、音同士のつながりを愛することで、音楽に向き合うエネルギーが生まれ、自分自身の世界を深めていくことができます。そこには無限の可能性があります。」
―最後に、世界が不安定な状況にある今、音楽は個人や社会にどのような役割を果たすと思われますか。
シャム「音楽の役割は、時代の始まりから変わらず、人と人とを結びつけ、心を高めることにあります。
そして音楽の素晴らしさは、言語や文化、国境を超えてそれが可能であるという点です。力のある音楽は、私たちの身体に直接響きます。
音楽は人間の表現や言語から自然に生まれるものであり、存在しないことはあり得ません。
だからこそ、音楽を楽しむ体験を通じて、私たちは違いを忘れ、より大きな人間としての共通の体験を分かち合うことができると信じています。」
公演情報
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール2026優勝
アリスト・シャム ピアノ・リサイタル
◆日時・会場:
- 2026年5月8日(金) 19:00開演 @神戸朝日ホール
- 2026年5月11日(月) 19:00開演 @サントリーホール・ブルーローズ
◆曲目:
- 第一部
- J.S.バッハ/ブゾーニ編曲:シャコンヌ ニ短調
- ラヴェル:夜のガスパール
- 第二部
- ブラームス:奇想曲 嬰ヘ短調 Op.76-1
- ブラームス:奇想曲 ロ短調 Op.76-2
- ブラームス:奇想曲 ト短調 Op.116-3
- ブラームス:間奏曲 ハ長調 Op.119-3
- ブラームス:間奏曲 イ長調 Op.118-2
- ブラームス:間奏曲 ハ長調 Op.119-3
- ブラームス:奇想曲 ハ長調 Op.76-8
- ブラームス:ピアノ・ソナタ第1番 ハ長調 Op.1


