音楽を作るのは音 – ナサニエル・ローゼン氏にインタビュー

来日公演情報
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ナサニエル・ローゼンは、1978年のチャイコフスキー国際音楽コンクールで、アメリカ人として初めて優勝した世界的チェリストだ。

6歳でチェロを始めて以来、ソリストとして、また世界中の主要楽団で首席奏者として国際的なキャリアを築いてきた。

2011年に日本へ拠点を移して以降、松山を中心に、リサイタルやオーケストラとの共演更には、チェロレッスンといった意欲的な活動を日本においても続けている。

そんなローゼンが、2026年8月10日、サントリーホール・小ホールにてリサイタルを開催する。

リサイタルに向けた熱い想いを語ってもらった。

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インタビュー

はじめに、今回のリサイタルに向けての思いをお聞かせください。また、福原彰美さんとの共演について、どのような印象をお持ちですか。

ナサニエル・ローゼン「このリサイタルは偉大な俳人、(黒田)杏子先生を追悼するものです。ご存命の間の開催は叶わなかったため、彼女が天国で我々の演奏を聴いていただけることを願っています。
福原彰美さんは10年以上も共演する機会がある舞台上のパートナーです。初めて一緒に弾いたチャイコフスキーの三重奏と、その時の彼女の素晴らしい演奏は未だに心に刻まれています。」

今回はチェロ・ソナタに焦点を当てたプログラムですが、このジャンルの魅力をどのように捉えていますか?
また、ピアノとチェロの関係性について、理想的なバランスとはどのようなものだとお考えでしょうか。

ナサニエル・ローゼン「偉大なる作曲家たちの作品とは、演奏者が上手に弾きさえすれば聴く者の心に直接語りかけるものです。
演奏をするとき、我々は可能な限りの高みを目指し、その高さで足りることを願うのです。
楽曲の中で常に変わる音の質感に伴い、旋律が自然に浮かび上がってくるようなバランスこそが、チェロとピアノの理想的なバランスと言えるでしょう。
ピアノはチェロより100倍も大きな音が出るわけですから、彰美さんほど才能に溢れて繊細さも併せ持つピアニストと演奏ができることは、またとない喜びです。」

今回のベートーヴェン、シューベルト、グリーグという選曲には、どのようなストーリーや流れを意識されていますか?

ナサニエル・ローゼン「このコンサートのプログラムは、対照的な三曲を巡る旅です。
後期に書かれたベートーヴェンのソナタは短くも歌に満ちた旋律に、力強く、時には恐ろしいエピソードが散りばめられています。
しかもそれはまだ第一楽章の中だけの話であり、第二楽章は上空より降ってくる贈り物の如くふわりと訪れ、さらに終楽章は、軽やかに駆け抜けるような八分音符に満ちたフーガとなって強く、また柔らかく、優しいユーモアを漂わせます。この物語を我々の演奏によって明確に、説得力を持って提示することを望みます。
シューベルトのソナタはほとんどの主旋律をチェロに与えていますが、この楽曲を弾くことを楽しまないピアニストに出会ったことがありません。
グリーグのソナタは偉大な作品です。ピアニストがグリーグのピアノコンチェルトを演奏することが大好きなように、私もこのソナタを弾くことが大好きです。まるでシンフォニーのような規模の楽曲を、みなさんも我々と一緒に愛してくれることを願っています。」

古典派からロマン派へと移りゆく中で、チェロの役割や表現はどのように変化していくと感じられているでしょうか。

ナサニエル・ローゼン「チェロにおける音域の幅というものは、常に作曲家たちのインスピレーションをかき立て続けました。
最初の偉大なチェロ奏者兼作曲家であるボッケリーニを初めとして、最初の偉大な女性チェロ奏者であるリザ・クリスティアーニはメンデルスゾーンのミューズ(創造の女神)としても知られ、さらに19世紀後半の偉大なマエストロたちに続きます。
いつの時代においても、世の音楽愛好家たちの注目を集める数人のチェロ奏者たちは常にいるものです。」

ローゼンさんにとって、第6回チャイコフスキー国際コンクール優勝は、キャリアにおいて大きな転機だったと思います。その経験は現在の演奏活動にどのように影響していますか?

ナサニエル・ローゼン「私はチャイコフスキー国際コンクールに二度挑戦しましたが、初めて参加した12年後の二度目で成功を収めました。
アメリカのベトナムでの敗戦とソビエト連邦のアフガニスタンでの破滅的な戦争の間に位置した、そんな冷戦の最中の優勝でした。それが理由で注目が集まったのでしょう。
それに加えて、私は当時ピッツバーグ交響楽団で首席チェロ奏者を務めるオーケストラ奏者、つまり労働者でした。その点も物語性に貢献し、結果的に大衆の需要が高まりました。
全てずっと昔のことで、今日まで残る影響はありませんが、今でもその時を振り返ると笑顔になります。」

そのコンクール優勝当時と現在で、音楽への向き合い方に変化はあるでしょうか?

ナサニエル・ローゼン「時間と共に誰にでも訪れるように、私の音楽への姿勢にも変化が訪れました。コンクールを目指していた日々、私は全員に勝たなくてはいけませんでした。今は自分に勝とうとしています。」

長年演奏活動を続ける中で、ご自身の音や表現はどのように変化してきましたか?
また、室内楽において、特に大切にしている「聴く力」や「対話」について教えてください。

ナサニエル・ローゼン「若い頃はできる限り上手に弾きたいと思っていました。今でもそれは変わりませんが、それだけではなく音楽をあるがままの音楽として弾きたいと思うようになりました。
音楽的思考とは必ずしも言葉で構成されておらず、私は音楽としての明瞭さを求めています。
学校から子どもへの評価の一つに《他の人と仲良くできる》という項目がありますね。音楽は簡単に言えば主旋律と伴奏があり、それらは常に変わり続けます。
私が室内楽の伴奏を弾く時は、主旋律を弾く人に自分の好きに表現する自由をさし出し、私が主旋律を担う時には同じ気遣いを期待します。」

長いキャリアを通じて多くの若い音楽家と接してこられたと思いますが、現代の演奏家に求められる資質とは何でしょうか。

ナサニエル・ローゼン「若い音楽家と演奏をする際、よく彼ら彼女らの才能とあたたかい心遣いに感銘を受けます。
若く、美しい彰美さんが、私のような白髪の老いたチェリストと一緒に演奏してくれてありがたいです。」

ずばり、ローゼンさんにとって、チェロという楽器の最も魅力的な点はどこにあるとお考えですか。

ナサニエル・ローゼン「C’est le ton que fait le musique――音楽をつくるのは音だ。だからこそ、チェロは魅力的なのです。」

最後に、今回のリサイタルで、聴衆にどのような体験をしてほしいと考えていますか。

ナサニエル・ローゼン「時折クオリティの高いリサイタルを演奏したにもかかわらず聴衆の方々には響かなかったように思えることがあり、逆に芳しくない演奏で壮大な拍手を受けたこともあります。
選択肢があるならば、私の自尊心が無事のままで皆さんも楽しめる演奏を弾きたいものです。彰美さんもきっと同意してくれるでしょう。」

長年のキャリアを経て「コンクールでは全員に勝たねばならなかった。今は自分に勝とうとしている」と音楽への向き合い方を変えて来たローゼン。

ベートーヴェン、シューベルト、そしてグリーグという異なる個性を持つ作品をナサニエル・ローゼンと長年の信頼関係で結ばれたピアニスト福原彰美が奏でる時間を。ぜひ会場で体感してほしい。

(日本語翻訳:岩﨑真木子)

公演概要

◆日時:2026年8月10日(月) 19:00開演

◆会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

◆出演:ナサニエル・ローゼン(Vc)、福原彰美(p)

◆曲目

  • ベートーヴェン:チェロ・ソナタ5番 ニ長調 Op. 102-2
  • シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D. 821
  • グリーグ:チェロ・ソナタ イ短調 Op.36

◆チケット:サントリーホールHPをご確認ください。

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