2025年4月30日(水)に武蔵野スイングホールにて、エフゲニー・ザラフィアンツと門下生によるピアノ・コンサートが開催されます。
演奏家のみならず、指導者としても日本のクラシック音楽界に貢献されているザラフィアンツさんに、今回のコンサートの見どころや、指導者として意識されていることなどついて、お話を伺いました。
自分自身で考え、解釈を深める力を養う教育
1993年のポゴレリッチ国際コンクール第2位で脚光を浴びて以降、ピアニストとして世界で活躍し続ける一方、ザラフィアンツさんは教育者としても活動し続けています。
ザグレブ国立音楽院講師、愛知県立芸術大学ピアノ科教授などを経て、現在は日本を拠点にされているザラフィアンツさんですが、指導の際には「門下生が自分自身で考え、解釈を深める力を養うこと」を最も重視していると語ります。
「私は単に正しい弾き方を教えるのではなく、音楽に対する自主的な探求心を育むことを大切にしています。
そのため、技術的な指導と同時に、哲学的な問いかけを行い、音楽の意味を考えさせるようにしています。
日本の音楽教育は、技術の習得に重点を置きがちであり、独自の解釈や創造性を発展させる機会が少ないと感じます。
一方、西洋では音楽を自由に解釈し、個性を重視する傾向があります。
この違いが、日本のピアニストが高い技術を持ちながらも、画一的な演奏になりやすい要因の一つであると考えます。
また、音楽は単なる技術の集合ではなく、思想や哲学、そして生き方そのものを反映するものです。
そのため、私は門下生に対し、楽譜を単なる固定されたものと捉えるのではなく、そこに秘められた無限の可能性を探る姿勢を持つように指導しています。
解釈においては自由が尊ばれるべきですが、そこには論理と調和が必要です。
音楽とは生き物であり、成長し続けるもの。
その考えを深めることで、門下生たちは音楽をより豊かに表現できるようになります。」
その上で、今の若いピアニストに求められる資質についても伺いました。
「単なる技術の高さではなく、音楽を深く理解し、自由に解釈する力が求められます。
なぜなら、芸術は生き物であり、固定されたものではないからです。
自己の哲学を持ち、音楽を通じて何を伝えたいのかを考えることが、これからの時代のピアニストには不可欠だと思います。」
音楽の本質を共有し、深めるコンサートに
今回のコンサートは、ザラフィアンツさんと門下生によるピアノ・コンサート。
22人の門下生との共演について、ザラフィアンツさんは「単なる技術的な指導を超えて、音楽の本質を共有し深める場」であると考えています。
「演奏を共にすることで、言葉だけでは伝えきれない音楽のニュアンスや表現の自由、また音楽的な時間の感覚を直接示すことができます。
また、門下生にとっても、実際の演奏の場における即興的な判断を学ぶ機会となります。
音楽は生き物であり、共演を通して互いに影響を与え合いながら成長していくものなのです。
門下生の演奏において注目してほしいのは、それぞれが持つ個性と、楽曲に対する独自の解釈です。
私の指導の核心は、画一的な演奏ではなく、各演奏者が作品と向き合い、深く考え、自己の音楽を作り上げることにあります。
特に今回の共演では、ピアノが『歌う』ことの大切さを強調しています。
彼らの演奏から、単なる技巧の優劣を超えた、ピアノの音が生命を持ち、呼吸し、響き合う瞬間を感じていただければと思います。」
そして、22人の門下生による演奏の後は、ザラフィアンツさんによるムソルグスキー《展覧会の絵》が演奏されます。
「『展覧会の絵』は、音楽と視覚芸術が融合した独特な作品であり、まるで演奏者が一枚一枚の絵画の中を歩いていくような感覚を持たせてくれる作品です。
ムソルグスキーは、ただ音楽を描写的に作ったのではなく、絵画が持つ精神性や象徴性を音楽で表現しました。
そのため、単なる『絵の音楽的な再現』にとどまらず、深い解釈と精神性を求められる作品です。」
また、ザラフィアンツさんにとってこの作品を演奏する上で重要なポイントは「音楽的時間と空間の扱い」だと言います。
「各曲が異なる個性を持っており、それらがどのように一つの流れとしてつながるのかを意識することが必要です。
また、タッチの変化も決定的な要素となります。例えば『バーバ・ヤーガ』と『キエフの大門』では、音の重厚さや響きの広がりを考慮しながら、ピアノが持つ無限の音色を引き出すことを心掛けています。
その際に、視覚的なイメージを音に変換するため、まずは色彩と質感を考えます。
例えば『古城』では、遠くから響くような幽玄な音色を、『テュイルリーの庭』では軽やかで透明感のある響きを意識します。
音楽を単なる音の流れではなく、一つの視覚的・感覚的な体験として提示することが、この作品の本質を伝える鍵となると考えています。」
最後に、ザラフィアンツさんにとって、音楽とはどのような存在であり、今なお探求し続けていることについて伺いました。
「音楽とは、単なる娯楽ではなく、人間の内面的な探求と表現の場であり、精神の自由を象徴するものです。それは時代と共に変化し、新しい意味を生み出し続けるものです。
音楽において探求が終わることはありません。楽曲の解釈、音色の可能性、音楽の持つ意味—これらは常に変化し、深まり続けるものです。
これからも、音楽という無限の世界を探求し続けていくことになるでしょう。」
公演情報
エフゲニー・ザラフィアンツ&門下生 ピアノコンサート

◆日時:2025年4月30日(水) 13:45開演(※ザラフィアンツ出演は、20:00頃を予定)
◆会場:武蔵野スイングホール
◆プログラム:
・ムソルグスキー:展覧会の絵(演奏:エフゲニー・ザラフィアンツ)
他、門下生による演奏
◆チケット窓口:ザラフィアンツホームページ