「音大は誰でも入れる?」という疑問を持つ人へ、音大は受ければ誰でも合格できるのか、その現実を解説していきます。
東洋経済の記事によると、音大の学生数はここ数年減少の一途で、多くの音大が定員減→定員割れ→定員減→・・・の負のスパイラル状態にあると言います。
音楽関係学科の学生数は、1990(平成2)年度約2万2000人、2000(平成12)年度約2万3000人と、この10年はほぼ横ばいでしたが、7年後の2007(平成19)年度に2万人を割り込み、2020(令和2)年度には、約1万6000人と、この20年で3割以上も減少してしまいました。
東洋経済ONLINE「音楽大学がここまで凋落してしまった致命的弱点」2023年8月8日閲覧
そのため、「音大って定員割れしてるし、誰でも入れるんじゃない?」と思う人も増えているように感じられます。
何かここ数年の音楽系の大学、音楽学部の学生募集停止してたり、他の学科(文系の学科とか)に統合されて規模縮小してたりするのを見かけるので、一部の大学を除き音大ってどこも本当に定員割れ厳しいんですね…
— tako/山口珠実(Tamami Yamaguchi) (@tako_fl_picc) May 4, 2024
やだやだ、まだ作陽は生き残ってくれ…
本記事では、音大入試の実態をご紹介し、「誰でも入学できる」という噂の真相などについて詳しく解説していきます。
音大は誰でも入れる?
結論から言うと、特に私立音大は定員割れの影響もあり、どんなに実力が低くても、とにかく入学させる経営方針を取っている大学が多いというのが現実です。
現実的な話、大学側としては、学生がお金を落としてくれないと経営を維持できないため、昨今の定員割れしている情勢では、やむを得ず、質より量を優先せざるを得ないのです。
入学したとしても、すぐに退学されてしまったら、結果的に稼げないし意味なくない?
そう思われるかも知れませんが、大学側にとっては、4年間いてくれなくても、とりあえず入学してくれれば経営的に助かるという考え方もされています。
例えば、「保健の教科書」が発表した「東京6音大の学費ランキング」によると、東京の6音楽大学の初年度納付金は以下の通りになります。
1位:桐朋学園大学 ¥2,600,000
2位:国立音楽大学 ¥2,250,000
3位:昭和音楽大学 ¥2,295,500
4位:武蔵野音楽大学 ¥2,310,000
5位:東京音楽大学 ¥2,312,000
6位:東京藝術大学 ¥1,206,020※金額は初年度納付金
保健の教科書『音大はやっぱり高い?入学金や入学後にかかる費用について紹介』2024年7月25日閲覧
上記の初年度納付金額を見て分かりますが、私立音大の初年度納付金合計金額は、約140〜260万円(国公立の場合は約82万円)と音楽之友社でも発表されています。
つまり、入学してくれた瞬間に、初年度納付金として一人当たり約200万円納めてくれるのですから、大学側にとってはそれだけでも有り難いですよね。
たとえ入学してから本気で音楽に取り組まず、すぐに退学されたとしても、そんな人から最低200万円は稼げるのですから、定員割れの場合はとにかく入学させることにスイッチしている私立音大が多い現状です。
ただし、当たり前ですが、あまりにも専攻楽器の実力がない、聴音や楽典の試験の点数が低い、将来性がないと判断されれば、入学を断られることもあります。
そう考えると、「音大は誰でも入れる」という気持ちで入学してくる人は、大学側にとってはカモとしか思われていませんね。
そんなあなたが納めてくれた200万円が、本気で音楽に取り組んでいる学生のために使われてほしいものです。
誰でも入れてしまうことによって起こる現実
前述の通り、質より量を優先して、経営のために誰でも入学させている音大が年々増えているのが現実です。
その結果として、「音楽が得意かどうかも怪しい」レベルの学生が存在する大学も多くなってきており、日本の音楽大学の価値観は下がってきているとしか言えません。
近年では日本トップクラスと言われている音楽大学でさえ、トップレベルの学生は在学中からプロとして活躍している一方、下の方のレベルは目を覆いたくなるようなものだそうです。
そのため、大学によっては、トップレベルの学生だけを集めた「特待生クラス」が設けられていますが、このようなクラスが増えているのも、こういった学生間のレベルの差が広がっているためでしょう。
昨今の円安の情勢がありながらも、ヨーロッパの大学へ留学したり、ヨーロッパを拠点に音楽活動するほうが、日本の音大で学ぶよりはるかに良いのは間違いありません。
「音大は誰でも入れる」といった気持ちで入ってこられるのは、前述したように大学側にとっては経営的に助かりますが、学生側にとってはメリットはほとんどないように感じます。
なぜなら、このような学生の場合は、卒業後の進路にも影響を及ぼす可能性が高いからです。
「音大卒」って、なんだか輝かしい響きのように感じられるかもしれませんが、その肩書きが何かを保証してくれるわけではなく、「音大卒」が輝かしく通用するのは、残念ながら素人相手だけです。
そんなにピアノが弾けるなんてかっこいいね〜!
一応、「音大卒」ですから。
くらいしか、「音大卒」は使い物になりません。笑
また、音大に入学したからといって、全ての学生がプロの演奏家として成功するわけではなく、実際には、音楽とは全く関係のない職業に就く学生も多くいます。
しかし、そのような場面でも「音大卒」という肩書きは全く役に立ちませんし、むしろ企業側としては疑問を抱きます。
なんで音大なのに、うちの会社を受けたの?うちの業界、本当に興味あるの?
こういった不安を抱かれ、「音大卒」という肩書が逆効果となり、就活も上手くいかないという現実も聞いたことがあります。
音大に入学する際には、自分の将来の目標やキャリアプランをしっかりと考えることが重要です。
音大の正しい選び方
「音大は誰でも入れる」からと言って、安直に「倍率低い音大を目指そう」などと決めるのは危険です!
一般的に大学を選ぶ時は「偏差値」「学費の安さ」など、大学のネームバリューや経済的な事情、環境面で選ぶこともあるかと思いますが、音大の場合は必ず「先生との相性・先生のレベル」で選ぶようにしましょう。
なぜ、大学ではなく先生のことを重視するのかと言えば、芸術の世界というものが、国家試験のように価値を計り知る絶対の正解がないからです。
「先生のことを重視しろ」と言われても…どのような観点で見極めれば良いの?
良い先生かどうか見極めるポイントは、以下が挙げられます。
- 演奏に惹かれるか、自分の音楽感性と合っているか
- 指導方法は丁寧か
- 業界に名前が通っているか
もちろん、レベルの高い音大に行けば良い先生と出会える確率は上がるかもしれませんが、結局は自分の音楽感性と相性が合うかが大切です。
そのため、まずはオープンキャンパスやリサイタルなどを通じて「この方に音楽を教わりたい」と思える先生と出会いましょう。
とはいえ、いくら先生の演奏を聴いて「この先生に教わりたい!」と思えたとしても、いざ教わってみたら指導が丁寧ではないなど、指導法に難ありというケースも当然あります。
実際に師事した先輩から話を聞くなどして、指導面での評価もしっかり知っておきましょう。
また、「プロの音楽家として生活していきたい」というのであれば、特に若手の頃は先生の力を借りなければいけないケースが多いです。
その際に、先生がこの業界で名前の通っている人かという面も重視しましょう。要は、政治力があるかです。
例えば、オケのエキストラなどで仕事を紹介してもらえるか、コンクールの審査員を務めており推薦力があるかどうかでも、自分自身の将来に大きく影響してきます。
つまり、音楽の感性が合うかどうかだけでなく、指導レベルの高さや政治力の強さも含めて大学を選ぶことが大切なのです。
音楽の場合は特に、偏差値や学費の安さなど人気ランキングで進路を決めるのではなく、まずは師事したい先生を選ぶようにましょう。
まとめ
音大は誰でも入れるのかという問いに対して、答えは一部イエスです。
しかし、入学後に待ち受ける厳しい現実やリスクを正しく理解しておきましょう。
音大に入ること自体がゴールではなく、そこでどれだけ成長し、自分の目標に向かって努力できるかが鍵となります。
「音大卒」という肩書きだけでは、将来は何も保証されません。
真の実力と経験を積み重ねることで、初めて音楽のプロフェッショナルとして成功する道が開けていくのだと、私は思います。
音大を目指している人は、その現実をしっかりと見据え、自分の可能性を最大限に引き出す努力を続けてくださいね。